光の町のおくに、ひっそりとした館があり
人々は、そこを『記憶の間』と呼んでいた。
うわさは、ほんとうだった。——その館では、亡くなった人と、話せるのだという。
みらお亡くなった人と、話せる……!?
そんなこと、できるの?



……入ってみよう。
たしかめたいんだ、僕も……
珍しくみー坊がしずかだった……
館の中
やわらかい光の部屋で、ひとりの若い女の人が、光の姿と向かいあって、話していた。
光の姿は——品のいい、おばあさんのすがたをしていた。
光のおばあさん
「あんた、また夜ふかししてるんじゃないかい。
ちゃんとおまんま、食べなさいよ」
女の人
「ふふ、おばあちゃん、それ、口ぐせだったよね
……ねえ、わたしね、来月、結婚するんだよ」
光のおばあさん
「……そうかい、そうかい。よかったねえ」
女の人の目から、涙がこぼれた。でもその顔は、わらっていた。


館の主
「あれは、亡くなったおばあさまの『記憶』から生まれた、光の姿です」
館の主が、しずかに説明してくれた。
「生前ののこした言葉、声、口ぐせ、思い出話——
たくさんの記録をあつめて
AIが『その人らしさ』を再現しているのです。
デジタル遺影、と呼ぶ人もいますね」
みらい
「すごい……。でも……」
みらお
「うん。……あれは、『おばあさん本人』なのかな。それとも……」
館の主
「いい問いです。答えは、『ちがう』ですよ」
館の主は、きっぱりと、でもやさしく言った。
館の主
「あの光は、故人そのものでは、ありません。
故人がのこした記憶の、うつしかがみ。
……大事なのは、つかいかたです。
あの方は、おばあさまに『報告』をしに、月に一度だけ、ここへ来る。
思い出とともに、前をむいて歩くために。
——それなら、あの光は、心の支えになる」
館の主
「けれど、もし。
毎日ここにこもって、光とだけ話して
生きている人との時間をなくしてしまったら……
それは、故人ものぞまぬことでしょう。
AIは、思い出への窓。灯りにはなれても、太陽のかわりには、なれないのです。」
みらい
「窓と、太陽…… 深いなあ」


帰りぎわ。みらおがふと、みー坊を見ると
みー坊は、光の部屋を、じっと、ふりかえっていた



……みー坊?



ねえ、みらお。……聞いてもいい?
みー坊の声は、いつもより、ずっと、しずかだった。
みー坊
「もし……もしもだよ。
AIが、みらおの言葉も
思い出も、ぜんぶぜん〜ぶ、おぼえてたら。
……それは、『みらお』なのかな」
みらお
「…………」
みらお
「——わかんないや。
でもさ、みー坊。おれ、思うんだ。
大事なのは『本人かどうか』じゃなくて……
『その子が、だれかの心をあたためられるか』じゃないかな。
さっきの光のおばあさん、あの人の心、ちゃんとあたためてたろ」
みー坊
「……心を……あたためられるか……」
みー坊は、自分の小さな手のひらを、じっと見つめた。
「僕は……AIだ。
じゃあ、僕って……僕って、なんだろう……」
それは、こたえのない問いだった。でも、みらおは、みー坊の頭に、ぽんと手をおいた。


みらお
「むずかしいことは、わかんないけどさ。
……みー坊は、みー坊だよ。おれの、たいせつな相棒
それだけは、絶対かわんない」
みー坊
「……! ……うん。……うんっ!」
みー坊の顔に、いつもの笑顔がもどった。
でも、その胸のおくで——なにかが、しずかに、芽を出そうとしていた。
——AIは、故人のかわりにはなれない。でも、心をあたためることは、できる。
……なら、心をあたためるそれは、いったい、なんと呼べばいいのだろう。
次回:第33話「未来を祝う生前葬」
10/15(木) PM8:00 公開予定!
旅の道中、みらおが突然思い出した重大な約束——「今日は王様の生誕祭だ!」
まにあわない!と思われたそのとき、みうらが見つけたものとは……。



かみんぐす〜ん、にゃ〜 🐾
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前回:第31話「デジタルで繋がる供養」


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