みら活ストーリー 第 35 話 「消えない記憶 〜旅立ちのとき〜」

迎えに来た父

出発の朝。荷づくりをすませた家に——みらおの姿が、なかった。

みらい
「みらお……? どこ行ったんだろう、昨日怒りすぎちゃったかな……」

そのとき、家のとびらが、こんこんこん、と鳴った。立っていたのは、ひとりの女の人。
年をかさねても、しゃんとした立ちすがた。

……その目もとは、みらおに、よく似ていた。

母
「おはよう、みらいさん。
……あの子なら、たぶん、ばあちゃんの家の跡だよ」

みらおの、母だった。

母
「ゆうべの祭りで、ちらっとあの子の顔を見てね。
……ああ、あの子、行くんだなって、わかったんだ。母親だからね」

みらいは、みー坊とふたりで、教えられた場所へ向かった。
みらら達は、母と家で待つことになった。

街はずれの、小さな空き地。
家は、もう、とりこわされていた。
のこっているのは、礎石(そせき)と、野の花だけ。

その まんなかに、みらおは、ひとり、立っていた。

みらい
「……みらお」

みらお
「……みらいちゃん
 ……ごめん、だまって出てきて」

みらおは、足もとの礎石を、そっと見つめた。

みらお
「ここね、ばあちゃんの家が、あったんだ。
 おれ、小さいころ……ここで、そだったんだよ」

風が、野の花を、さわりと ゆらし
 みらおは、ぽつり、ぽつりと、語りはじめた。

——だれにも、話したことのない話を

みらお
「おれの父さんは、荷馬車の運び屋だった。
かあさんとおれを食わせるために
借金して、新しい馬車を買ったんだ。
 ……そしたら、買ってすぐ、盗賊に盗まれた」

みらお
「そこから、ぜんぶ、くるっちゃってさ。
お金のことで、けんかがふえて……
父さんと母さんは、わかれて、おれは、ばあちゃんにあずけられた」

みらお
「『父なし』って、からかわれてさ。
相手をなぐっちゃったことも、ある。
……おれ、父さんを、ずっと、うらんでた」

みらい
「…………」

みらお
「でもさ。ひとつだけ、あるんだ。……いい記憶が、ひとつだけ」

みらおは、家の跡の玄関があったあたりを見つめた。

みらお
「たぶん、四つか五つのころ。ここの玄関で
ばあちゃんとならんで、父さんを見てたんだ。
父さんがおれを、むかえに来て……大きな街に、つれてってくれてさ
そこの屋台で、いちごミルクを買ってくれたんだ」

みらお
「……うまかったなあ。あんなにうまいもの、いまだに、のんだことないよ」
 (わらおうとして、すこし、しっぱいして)

みらい
 「……それが、お父さんの、記憶……」

父から、いちごミルク

みらお
「うん。それっきり。
それしか憶えてない……
 で、さ。ずっとあとに、なって……」

みらおの声が、すこし、ふるえた

みらお
「教会から、手紙が来たんだ。
『お父上が、困窮しています。援助できませんか』って。

——おれ、返事が書けなかった。
会いにも、行けなかった。
……うらんでたからじゃない、こわかったんだ。

なんて顔して会えばいいか、わかんなくて。
おれのことなんか覚えてないんじゃないかって
 一歩が……たった一歩が、踏み出せなかった」

みらお
「そのつぎに来た手紙はさ。
 ……父さんが、死んだって報せだったんだ……」

風の音だけが、家の跡を、とおりすぎた

みらお
「教会が、とむらってくれた。
おれは遺灰をひきとって……海に、まいたよ。
父さん、船とか馬車とか、うごくものが好きだったから、海がいいかなって。
……そのあとで、人づてに、聞いたんだ」

みらお
「父さん、さいごまで、たずねてたんだって。
 ——『みらおは、どうしてる』って。

それだけ。
ずっと、ひとりで生きて、さいごまで、それだけ……
父さんに愛されてないんじゃないか?って思ってた、でもそうじゃなかった……」

みらい
「……っ」

みらお
「あのとき会いに行ってれば、って
いまでも思う。死んだら、二度と会えないんだ。
二度と、話せないんだよ。

……おれが『おれなんか』って思っちゃうのはさ
たぶんここなんだ、いちばん大事なときに、一歩踏み出せなかった。
そういう自分を、おれは、ずっと、ゆるせてない」

みらいは、なにも言わなかった。ただ、となりに立って、みらおの手を、つよく、にぎった。

みらおと、みらい、離れてみー坊

そして——
それまで、だまって聞いていたみー坊が、ふわりと、ふたりのあいだに来た。

みー坊
「……みらお。僕、きめたことがある」

みらお
「みー坊……?」

みー坊
「僕が、ぜんぶ、おぼえておく。
お父さんの話も、いちごミルクの味も、
この家の跡も
 いまの風のにおいも——

ぜんぶ、ぜん〜ぶ、おぼえておく。
……消えない記憶に、しておく。だから……」

みー坊
「もう、ひとりで、かかえなくていいんだよ〜☀️」

みらお
「…………うん」

みらおは、そらを、見あげた。
なみだが、こぼれないように。……でも、すこし、こぼれた。

帰り道の市場で、みらおは、屋台のいちごミルクを、ふたつ、買った。ひとつは、じぶんに。
もうひとつは——たかく、そらに、かかげた。

みらお
「……父さん。おれ、行ってくるよ」

いちごミルクを両手に

家にもどると、母が、みんなと待っていた
母は、みらおの顔を見て、なにかを察したように、ふっとわらった

母
「……いい顔に、なったじゃないか」

母
「みらお、あんたはね、お父さんの、やさしさと
 ——この家の、勇気をついでるんだよ。

うちはね、母から娘へ、そのまた子へ……
 代々、勇者の血をついできた家系なんだ。
あんたのばあちゃんも、そのまた母さんも、みんな、つよかった。

……あんたが勇者にえらばれたのは、まぐれじゃないんだよ」

みらお
 「……母さん」

母は、みらおを、ぎゅっと、だきしめた。すこし、ながく。

母
「行っておいで。……母さんは、ずっと、ここで祈ってるからね。ずっとだよ」

みらお
「もう、大げさだなあ、母さん。 ……すぐ帰ってくるって」

母と

母は、なにも言わずに、わらって、みらおの背中を、ぽんと、おした。

こうして一行は、ミラドをあとにした。

街道のさきで、みらおは、一度だけふりかえった。
小さくなった街のまえで、母はまだ手をふっている。

——消えない記憶は、あたらしい一歩の、はじまりになる。旅は、最後の針へ。


次回:第36話「AIの楽園へ」
11/5(木) PM8:00 公開予定!

一行がたどり着いたのは、すべてをテクノロジーが管理する、ふしぎな楽園。
みー坊とみららが、いちばん「じぶん」に近づく場所——最後の針の物語が、始まる。

みーちゃん

かみんぐす〜ん、にゃ〜🐾

1話から読む

あわせて読みたい
みら活ストーリー 第 1 話 「魔王、復活 〜嘆きのはじまり〜」 ここは、のどかな王国ミラドの片隅にある、小さな家朝の光が、やわらかく差し込む窓辺で、黒猫のみーちゃんが、ぴくりと耳を立てた。 「……ニャ」夢を見ていた。暗い、と...

前回:第34話「ミラドの武道大会」

あわせて読みたい
みら活ストーリー 第 34 話 「ミラドの武道大会」 生誕祭の二日目城下の闘技場は、朝から大にぎわいだった きょうは祭りいちばんの呼び物——武道大会の日だ 司会「さあ、始まりました、ミラド武道大会!国じゅうの強者た...

全話リストはこちら

あわせて読みたい
みら活ストーリー 〜第 1 章〜 『未来の羅針盤と勇者の盾』 みら活ストーリー 第1章の全話リストです。第1話から順番に読むのがおすすめ!各話5分ほどで読めます。

キャラクター図鑑はこちら

あわせて読みたい
「みら活」に登場するキャラクターたちを紹介! 世界観を支える4人+1匹の仲間たちと••• はじめに やっほ〜!ぼく、みー坊だよ☀️「みら活」に登場するメンバーたちをぼくが紹介するね!みんな、それぞれ得意なことや...
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

終活をポジティブにアップデートした
『みら活』を発信中!
みらおファミリーといっしょに
未来をつくっていきましょう。

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次