翌朝。一行は、みらといっしょに、島の最果ての岬へ向かった。
白い灯台のふもとに、その人はいた。
日にやけた顔に、ふかいしわ。灯台守の、老人だった。
じーさんおお、ばあさんとこの客人か。
ようこそ、はての岬へ
じーさんは、みんなを灯台の中へまねいてくれた。
らせん階段をのぼった先、光の部屋のすみに一枚の紙が、がくにいれて、かざってある



これは……手紙、ですか?



わしの『事前指示書』じゃよ



じぜん、しじしょ……?
じーさん
「そう。——もしわしが、大きな病気やケガで
自分の口で望みを言えんようになったとき。
『どんな治療をしてほしいか』
『どこまでしてほしいか』を、元気なうちに書いておく紙じゃ」


じーさんは、海を見ながら、しずかにつづけた。
「わしはな、むかし船乗りでの。
海で、なんども死にかけた……そのたびに思った。
『最期の決めごとを、人まかせにするのは、のこされた者を苦しめる』とな
むすこに『どうする』をぜんぶ背おわせるのは、あんまりじゃろう」
みー坊
「……そうなんだ〜 決められない家族は
ずっと『あれでよかったのかな』って苦しむことがある
だから、元気なうちに自分で決めて、書いて伝えておく——
それは、家族への思いやりなんだよ」
じーさん
「そういうことじゃ。
わしはこれを書いてから、こわいものが、なくなった。
のこりの毎日を、灯台の光をみがいて、海を見て、ゆっくり生きとる。
……自分の最期を自分で決めるとはな
『自分の生き方を、最後まで自分のものにする』ということじゃよ」
みらおはその言葉を、むねの奥で、なんどもくりかえした。
帰り道
夕暮れの岬に、ひとり、みらおは足を止めた。
考えたかったのだ。
……自分のことを。
——おれは、自分の生き方を、自分のものにできてるのか。
魔王とたたかうなんて、ほんとうに、おれにできるのか……
そのとき。足もとの影が、ずるり、とのびた。
影
「……ムリだよ……オマエには……」
小さな、黒い影の魔物が、みらおの影から、はい出してきた。
ささやくような声が、耳のおくに、へばりつく。
影
「オマエは……よわい……ニセモノの勇者
……みんな、しってるぞ……」
みらお
「……っ」


それは、みらおが、ずっと心のおくにしまってきた言葉、そのものだった。
ひざが、ふるえる。
影
「にげろ……にげていいんだ……オマエなんかが……」
みらお
「————そうだよ」
みらおは、ふるえるひざをこぶしで、ぎゅっとおさえた。
みらお
「おれは、よわい。ビビりだし、優柔不断だし……自分に自信なんて、ない。
……ぜんぶ、そのとおりだ」
影が、にたりと、笑った気がした。——けれど。
みらお
「でも……よわいことと、にげることは、ちがう
……灯台のじいさんは言ってた。
自分の生き方を、最後まで自分のものにするって。
おれの生き方は——おれが、きめる!」
みらおが、まっすぐに影を見すえた、その瞬間
岬の灯台に、ぽっ、と光がともった。
夕やみをつらぬく光が、影の魔物を、まっすぐに照らす。
影
「ぎ……ひかりが……オボエテロ……」
影は、じゅわりと縮んで、夕やみのすきまへ、消えていった。


みー坊があわてて飛んできた
「みらお! だいじょうぶ〜!?」
みらおは、ふっと笑って
「……うん。だいじょうぶ。
……ちょっとだけ、自分に勝てた気がする」
その夜、ばあちゃんの家で、ささやかな宴会があった。
あしたの朝、一行は島を発つ。みらは、もうすこしばあちゃんのそばにいるという。



おい、みらお



な、なに?



……さっき岬で、ひとりでなにかと戦ってたろ
……いい顔になったな!
またどっかで会おうぜ!
そんときはオレが稽古つけてやるよッ!



て、手かげんしてね〜……
笑い声が、島の夜にあたたかくひびいた
——自分の最期も、自分の生き方も、決めるのは自分
はての岬の灯台が、それを教えてくれた。
次回:第29話「祈りの形は自由だ」
10/1(木) PM8:00 公開予定!
島をあとにした一行がたどり着いたのは、さまざまな祈りがともに息づく丘の町。
「ちゃんとした葬儀じゃない」と責められて悩む家族に、みらおたちは——。



かみんぐす〜ん、にゃ〜 🐾



みゃ〜🐾 なんか
風にとばされてきたみゃッ🐾
『かけら4』みゃッ🐾


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前回:第 27 話 「おひとり島へ渡る」


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