つぎの村に近づくと、遠くから、どなり声がきこえてきた。
「ぜんぶ捨てるなんて、ゆるさない!」
「じゃあおまえが、ぜんぶ持ってくのかよ!」
村はずれの大きな家の前で、ふたりの男の人が、言いあらそっていた。
家のとびらは開けっぱなしで、中から、家具や服や本が、あふれ出している。
みらいすごい荷物……。
おうちが、あふれちゃってる
話を聞くと、ふたりは兄弟だった。先月、お母さんを見送ったばかりだという。
兄
「母さんの家を、かたづけなきゃいけないんだ。
でも弟は『思い出の品だから』って、なにひとつ捨てさせてくれない」
弟
「兄さんこそ『ぜんぶ処分だ』って……
母さんの人生を、ゴミみたいに言うなよ!」



ま、まあまあ、おちついて……



……ねえ、ふたりとも
ちょっとだけ、聞いてくれる?
これはね、『遺品整理』っていう、とても大事な作業なんだ。
そして——いきなり『捨てる・捨てない』で始めると
かならずケンカになるんだよ〜
兄弟
「……え?」
みー坊
「まずやることは、捨てることじゃなくて
『分けること』なんだ〜☀️
①これからも使うもの。
②だれかにゆずるもの。
③手放すもの。
——この三つに、ゆっくり分けていく。
まよったものは『まよい箱』に入れて、あとまわしでいいんだよ☀️」





それとね〜💕
手放すのがつらい思い出の品は
『写真にとって残す』っていう方法もあるの
かたちは手放しても、思い出は、ちゃんと残せるんだよ〜💕
弟
「写真に……。そうか、ぜんぶ取っておかなくても、いいのか……」
みー坊
「それから、量が多くてたいへんな時は、
専門の業者さんに手伝ってもらう方法もあるんだ
ただし——ここも、あの沼とおなじ。
ちゃんと『見積もり』を取って
ゆるされた業者さんかどうか、たしかめてからね〜☀️」
兄
「見積もり……わかった。あわてて、決めないよ」
一行も手伝って、かたづけが始まった。
ひとつ、ひとつ、思い出をたしかめながら
「使う」「ゆずる」「手放す」に分けていく。
と、そのとき。たんすの奥から、みうらが、なにかをくわえて出てきた。
みうら
「みゃみゃッ🐾
これ、大事なものの気がするみゃ〜🐾」


それは、古い一冊のノートだった。
——お母さんの日記。さいごのページに、こう書かれていた。
『ふたりへ。わたしの物は、ぜんぶ、ただの物です
ケンカのたねになるくらいなら、ぜんぶ捨てなさい。
でも、あなたたちが仲よく笑っていた日々だけは
なにより大事な、わたしの宝物でした』
兄弟は、だまりこんだ。そして、どちらからともなく、ふきだした。
兄
「……母さん、ぜんぶお見通しだったな」
弟
「うん。……兄さん、ごめん。ケンカのたねに、しちゃうところだった」
夕方には、家の中は、みちがえるほど、すっきりしていた
のこされたのは、ほんとうに大切なものだけ。
兄
「ふしぎだな。物はへったのに……母さんとの思い出は、前よりちかくに感じるよ」
みらお
「遺品整理って、お別れの作業じゃ、ないんだね。
……思い出を、ちゃんと『えらびとる』作業なんだ」
みらい
「……いい言葉。えらびとる、かぁ」
村をあとにするころ、ふたごのような兄弟の笑い声が、家の中からきこえていた。
——嵐のあとの空は、よく晴れる。心も、おなじだ。
次回:第23話「終活村のおじいさん」
9/10(木) PM8:00 公開予定!
たどり着いたのは、なぜかみんなが生き生きしている、ふしぎな村
そこで出会ったおじいさんの「終活」とは——。



かみんぐす〜ん、にゃ〜 🐾
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前回:第21話「保険の迷宮」


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