つぎの町に入ると、一軒の家の前で、ため息が聞こえてくる
家のとびらは、あけっぱなし。中をのぞくと——紙、紙、紙……
書類の山が、ろうかまで、あふれ出ていた。
未亡人
「ああ、旅の方……。おはずかしいところを」
家の主は、年配の女性だった。
つかれた顔で、書類の山を、ぼんやりとながめている。

未亡人先月、夫を見送りましてね。
……そのあと、ご近所の方に言われたんです。
『ご主人、保険に入ってなかったの?』って
それが、わからないんですよ。
入っていたような気もするし、書類が、どこにあるのやら……



それで、おうちじゅうの書類を……



ええ。でも、さがせばさがすほど
ぐちゃぐちゃになってしまって……
もう、迷宮ですよ、この家は……
そのとき。書類の山のてっぺんで、なにかが、もぞりと動いた。



……ん〜? なんだっけ〜?
なにをさがしてたんだっけ〜?
ふわふわの、綿ぼこりのような魔物が、書類のあいだを、ふらふらとただよっていた
通ったあとの書類が、ばらばらと、あちこちに散らばっていく。



ウセモノノフだ〜!
『どこにしまったか』
『なにが大事か』を、
わすれさせちゃう魔物……!
この家の書類がぐちゃぐちゃなのは
あいつのしわざもあるね



わすれた〜、わすれた〜。
だいじなものほど、わすれた〜



なんだか、にくめないやつだな……
みー坊
「でも、ほうっておけないよ。
おくさま、大事なことを教えるねッ
保険はね『請求しないと、もらえない』んだ〜☀️」
未亡人
「え……。自動では、もらえないんですか?」
みー坊
「うん。保険の会社は、だれかが亡くなったことを、自分からは知らないんだッ
だから、のこされた人が『請求』して
はじめて保険金がしはらわれるんだ
そして請求には、期限もある。ずっとほうっておくと
時効で、もらえなくなることもあるんだよ〜」
未亡人
「そんな……。じゃあ、はやく証券を見つけないと……!」
みうら
「……まかせるみゃッ🐾」
みうらが、すん、すん、と鼻を鳴らして書類の迷宮へふみこんだ。
「こっちは、ちがうみゃ。
……こっちも、ちがう……
みゃ!このタンスにおうみゃ〜🐾」
みうらは、古いタンスの、いちばん下のひきだしの、そのおくを、かりかりとひっかいた
ひきだしを外してみると——おくに、小さな木箱が、ひっそりと、かくれていた。


木箱の中には、保険証券が、きちんとたたまれて入っていた。それも、二枚。



あっ……それ、夫の……!
二つも、入っていたなんて……。
あの人、なにも言わないから……



見つかって、よかった!
あとはこの証券をもって、保険の会社に連絡すれば
手続きの案内をしてもらえて
必要な書類も教えてくれるよッ☀️



それとね〜💕
もし証券がぜんぜん見つからなくても
あきらめなくていいんだよ
『契約があったかどうか、まとめて調べてもらえる仕組み』もあるの
ひとりでかかえこまないで、まず相談よ〜💕
ウセモノノフが、しょんぼりと、書類の山からおりてきた。



みつかっちゃった〜。
……わすれられたものが、あんまりかわいそうで
いっしょにいただけなのに〜



……そっか
おまえ、わすれられたものの、そばにいたかったのか



じゃあ、もう、この家にいる理由はないね。
この家の大事なものは、ちゃんと、思い出してもらえたから
ねッ🌟
みらいが、やさしく杖をふると、あたたかい光がウセモノノフをつつんだ。
魔物は「わすれないでね〜」と、ふわふわ、まどから飛んでいった。
未亡人は、二枚の証券を、むねにだきしめた
「ありがとうございました。
……これからは、わたしも、むすめに伝えておきます。
どこに、なにがあるか。……わすれられて、かなしい思いをするものが、出ないように」


町を出るころ、みらおが、ぽつりと言った。



保険って、入って終わりじゃ、ないんだね。『入ってるよ』って伝えて、はじめて、完成するんだな〜!



うん!
それも、りっぱな『伝える』だねッ☀️
羅針盤の四本目の針が、それにこたえるように、きらりと光った。
——たいせつな備えも伝わらなければ、ないのと同じ。見つけてもらってはじめて力になる。
次回:第22話「遺品整理の嵐」
9/7(月) PM8:00 公開予定!
つぎの村は、あふれる遺品の山に、うもれていた。
「なにを残して、なにを手放すか」——心の整理の物語。



かみんぐす〜ん、にゃ〜 🐾
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前回:第20話「突然の口座凍結!」


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