つぎの朝。一行は、泉のいちばん奥へと向かった。
「のぞいた者の未来をうつす」——その言い伝えの水面は、朝の光のなか
ふしぎな銀色にかがやいていた。
みらおはゴクリとつばをのんでから
「ほ、ほんとに、映るのかな……」
そこには先客がいた
若い旅の青年が、水面をのぞきこんだまま、かたまっている。

青年はあきらめたように
「……はは。おれの見送り、だれも来てないや」
青年の見つめる水面には、がらんとした部屋に、ぽつんと置かれた小さなお棺が
うっすらと映っていた。
青年
「べつに、いいんだ。おれ、家族もいないし、
お金もないし。……葬式なんて、いらない。
焼いてもらうだけの『直葬』ってやつで、じゅうぶん」
その声が、あまりにさみしそうで、みらおは、だまっていられなかった。
みらお
「あの……!
それ、ほんとに『いい』って思ってます?
あッ すみません、おれみらおっていいます、お名前は?」
青年
「……?…え、あ、シエルっていいます…」
みらお
「おれ、思うんです。
『いらない』って言葉のうしろに
『どうせ』がかくれてること、あるって。
……おれも、よく言っちゃうから。
『おれなんて、どうせ』って」
シエルの目が、すこしゆれた。

みー坊
「ねえ、きみ。『直葬』はね、
けっして悪いかたちじゃないんだ〜☀️
お通夜もお葬式もせずに、火葬だけでお見送りする
費用もおさえられるし
それを自分らしいと選ぶ人も、ちゃんといるんだよ」
みー坊
「それから『一日葬』というかたちもあるよ。
お通夜をせずに、告別式と火葬を一日ですませる。
体の負担も、費用も軽くなる。——大事なのはね
『お金がないから』『どうせ』で決めるんじゃなくて
『自分はどう見送られたいか』で、選ぶことなんだ」
みらら
「みららはね〜💕
直葬でも、たったひとりでも
『ありがとう』って思ってくれる人がいたら
それはもう、りっぱなお見送りだと思うな〜」
シエルは、もういちど、水面をのぞきこんだ。
みらお
「……ねえ、もういっかい、よく見て。ほんとに、だれもいない?」
水面のなかの、小さなお棺のそば。よく見ると——
ぼんやりと、人かげが、ひとつ、ふたつ。手を合わせてくれている。
シエル
「……あ、これは……幼なじみのニーザン
兄弟って呼び合ってたんだ、最近会ってないな……
それに、こっちは隣の家のエミリーちゃん、本を抱えてる……作家になったのか
子どもまで連れて、立派になったじゃないか」
みー坊
「未来は、決まってないんだよ。
きみが今日から、どう生きるかで
映るものは変わっていく……その人たちと、もうすこしだけ、話してみたら?」
シエルはながいこと水面を見つめて——それから、ちいさくうなずいた。
「……直葬でも、いいんだよな。
でも、『どうせ』じゃなくて
ちゃんと自分で選んで……それまでを、ちゃんと生きて、から」
青年が去ったあと、みらいがそっと水面をのぞいた。
「わ……! みんなで、ごはん食べてる。うちの食卓だ〜 ……ふふ、にぎやか〜」

みらおどれどれ……あ、ほんとだ
あれ、おれ、なんか年とってない?
あ〜あ、みらいちゃんも、だいぶあれだな、プッ……
……………………みらいの顔がひきつっている……



……今日は『MP』がたっぷり残ってるの🌟



キレた〜ッ💕



あ
みらおはそれしか言えなかった……
みんなが笑うなか——みー坊がひとり、水面のはしっこをじっと見つめていた。


みらら
「みー坊、どうしたの〜?」
みー坊
「……ううん。僕はAIだから、映らないのかなって思ったら……なんだろう、これ」
みー坊の見つめる水面には、光の粒が、ひとつだけ、ぽつんとゆれていた……
まるで、これから芽を出す、たねのように。
みー坊はポツリと、もらすように言った
「僕の未来にも……なにか、あるのかな」
みらお
「あるに決まってるよ!
だって、みー坊はおれの相棒だもん。
おれの未来にいるってことは、みー坊の未来もあるってこと!」
みー坊
「……! そっか。そうだよね〜!」
泉をあとにするとき、水面は、朝の光をあつめて、まぶしくかがやいていた。
——未来は、うつすものじゃなく、つくるもの。
泉は、それを教えてくれた。
次回:第18話「デジタル遺跡に踏み込む」
8/24(月) PM8:00 公開予定!
旅路の先にあらわれた、こわれた石碑のならぶ遺跡。
そこでは、だれにも引きつがれなかった「思い出」が、消えかけていた——。



かみんぐす〜ん、にゃ〜 🐾
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前回:第 16 話 「静かな泉のほとりで」


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