森の奥へ進むほど、霧は重く、暗くなっていった。
木々のあいだからはあちこちで言い争う声が、うずまくように響いてくる。
みー坊この声……ぜんぶ
相続でモメてる人たちだね…
霧がこんなに濃いのは……
きっとあいつのしわざに違いないもん…
みらお達がしばらく進むとひらけた場所に出た、そこには——
もやもやと黒い霧をまとった、大きな魔物がうごめき
何本もの腕が、人々のあいだに割りこんで、争いをあおっている。





出たなッ!
こいつは嫉み(そねみ)の念の集合体ソネミン
この森のボスなんだッ
『あいつばっかりズルい』
『自分のほうが正しい』って、
人の心のねたみをふくらませる魔物なんだッ



そうだ、もっと欲しがれ……
ぜんぶ自分のものにしろ……
ゆずるな、まけるな……
ソネミンがささやくたびに、まわりの旅人たちの目が、どんどんつり上がっていく
霧がいっそう濃くなった
みらお
「みんな、目つきが変わってる……!」
「このままじゃ、森の人みんなが、ケンカしちゃうよ……!」
心配そうなみらい
一人の老人が、杖をふりあげて、若者につかみかかろうとしている
みらおは、とっさにあいだへ飛びこんで両手を広げる
「やめてッ! ……お願いだ、ちょっとだけ、話を聞いて!」
みー坊が説得に加わった



みんなが知らないことがあるんだよッ!
相続には、ちゃんと
『分けかた』のルールがあるんだッ☀️



あのね、法律では
だれがどれだけうけつぐか、目安が決まってるのッ
これを『法定相続分』っていうんだよ
たとえば奥さんと子どもがいるなら
半分は奥さん、のこりの半分を子どもたちで分けるの
ひとりじめじゃなくて、ちゃんと
『みんなの取り分』があるんだよ〜ッ💕
老人はそっと杖をおろして
「わしの……取り分だけじゃ、なかったのか」
みー坊は続けた
「それにね
どうしても分けてもらえないときのために
『遺留分』っていう、さいていげんの取り分も守られてるんだッ
『あなたには一円もあげない』なんて、勝手には決められないんだよッ☀️」
感心するみらい
「へ〜! ちゃんと、弱い立場の人も守られてるんだねッ」
みー坊
「そうッ。それに、うけつぐ・うけつがないも、えらべるんだ。
借金まであるときは、『相続放棄』してぜんぶ受けつがないこともできるし
『限定承認』っていって、プラスのぶんだけ受けつぐ方法もあるんだよ☀️」
みらお
「知らないままだと、こわい。
でも、知っていれば…ちゃんと、えらべるんだね」
そのとき、ソネミンがぐわっと黒い霧をふき上げた
「よけいなことを……教えるな!
みな、そねみあっていればいいんだ……!」
「そうはさせないッ!」
みらおが、両手を広げて、旅人たちの前に立ちはだかり、黒い霧を自らうけとめている


ソネミンの攻撃に必死に耐えるみらお
「うぐッ…!分けあうのは、まけることじゃない…
……大事なものを、大事な人に『託す』ことなんだッ!!」
その言葉に、みらいの杖が、まばゆく光った
「みんなの気持ちを、ねじ曲げないで……
みらおをいじめないで!ゲキオコーーーッ!!」
いつものオコより、ずっと強い光がはじけたッ!


まばゆい光が一瞬で黒い霧を切り裂いていく
嫉みの魔物ソネミンは、すっかり小さくなって
どこか、さみしそうな声をのこし消えていった
消えゆく黒い霧
「だれも……ゆずってくれなかったから、おれは……」
みらおは優しい声で消えていく霧に語りかけた
「……うん。でも、もう大丈夫だよ…」
「………」
「みらおッ!大丈夫!?…」
心配そうにみらおのもとに駆け寄るみらい
「うん、大丈夫ッ!」
霧が晴れると、森にやわらかな光が差しこみ
争っていた旅人たちは、われに返って、たがいに頭を下げあっている
——その時、森のまんなかにあった古い切り株が、ひかり出した。
切り株の上に、オレンジ色に光る一本の『針』が、ぽつんと現れる。
みらおが羅針盤を取り出すと、針はすうっと吸い寄せられ、右上の溝におさまった。
カチッ


みー坊はみらおの周りを嬉しそうに飛び回り
「みらおやったね〜!
二本目の針『託す』の針だ〜ッ!
きっとこれを隠したのは
千年前の『託すの賢者』さまだね〜☀️」
みらいはみどりとオレンジ、二本になった羅針盤を見つめてつぶやいた
「託す……ひとりで、抱えこまない、ってことね」
みー坊は楽しそうに答える
「そうだよ〜ッ。整えて、託す。未来はちょっとずつ、つながっていくんだよ〜☀️」
森を抜けると、空が広く見えた。羅針盤の中で、二本の針が、ならんで光っている。
みらおはふと立ち止まり
「……次は、どこへ行くのかな」
みー坊は軽やかに答えてみせた
「行けばわかるよ〜ッ☀️
さあ、つぎの針をさがしに行こう〜ッ☀️」



そーいえば
みらいちゃん新しい魔法使ってたな…
ボス一撃かよ〜 おっかねぇ〜



あら、ためしてみる?
最近レベルアップしたみたいなの🌟



え、大丈夫です…
(えーなんで聞こえてるの〜)
一行は、明るくなった森の道を、また元気に歩きだした。
——5本の針の2本目。勇者みらおの旅は、少しずつ前へ進んでいく。
次回:第9話「古い手紙の謎を解け」
道ばたに落ちていた、古い手紙の束。
そこには、相続の手続きの順番が記されていた——。


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